妊娠中にリステリア菌に感染すると、胎児にも影響が及ぶリスクが高まります。リステリア菌は食品から感染することが多く、特に生ハムやナチュラルチーズ、刺身などの生ものには注意が必要です。この感染症が侵襲型に進行すると、流産や早産、さらには新生児に深刻な健康リスクが生じることもあります。
この記事では、妊婦がリステリア菌に感染した場合の症状やリスク、胎児への影響、予防のポイントを詳しく解説します。妊娠中の食事で気をつけるべきことや、万が一の際の対策について知っておくことで、大切な命を守るための情報が得られます。ぜひ最後までお読みください。
妊娠中のリステリア菌感染リスクと胎児への影響
妊娠中はリステリア菌感染に対して特に注意が必要とされています。リステリア菌は主に食事を介して感染し、妊婦にとってリスクの高い細菌の一つです。妊婦がリステリア菌に感染すると、免疫機能の変化から重症化しやすく、通常の成人よりも感染が侵襲型に進行するリスクが高くなります。
この感染リスクが問題とされる大きな理由は、感染が胎盤を通じて胎児に移行する可能性があるためです。リステリア菌感染が胎児に移行すると、流産や早産、最悪の場合は死産に至ることもあるため、妊婦はリステリア菌が潜む可能性のある食品には十分に気をつけることが勧められます。
① 妊娠中にリステリア菌感染が注意される理由
妊娠中は免疫システムが変化し、通常の成人に比べて感染に対する抵抗力が弱まることが知られています。これは母体が胎児を異物として攻撃しないようにするための仕組みである一方、特定の細菌やウイルスに対する感受性が増す結果となります。リステリア菌に対する感受性が上がることもその一つであり、感染に気づかず侵襲型に進行し、重症化しやすくなります。
特に、リステリア菌は冷蔵庫の低温でも繁殖可能で、乳製品や加工食品、生肉や生魚などに付着することが多いです。これにより、日常的に摂取しがちな食品から感染するリスクがあり、妊婦はリステリア菌を含む可能性がある食品を注意して避けることが必要です。
妊娠中のリステリア菌感染は、風邪や軽度のインフルエンザのような症状(発熱、倦怠感、筋肉痛)から始まることが多く、最初は見逃されやすいですが、進行すると母体に悪寒や激しい頭痛などが生じ、さらには胎児にまで影響を及ぼす危険があります。これらの理由から、妊娠中はリステリア菌感染を未然に防ぐことが特に重要視されているのです。
② リステリア菌感染による胎児への影響
妊婦がリステリア菌に感染し、それが侵襲型に進行すると、胎盤を通じて胎児へ感染する可能性が高まります。胎児への感染は、流産、死産、早産など重大な合併症を引き起こすことが知られています。また、無事に出産できたとしても、新生児がリステリア菌感染による合併症を発症するリスクもあります。
新生児リステリア症と呼ばれるこの感染症は、敗血症や髄膜炎を引き起こすことがあり、重症化すると長期的な神経発達への影響や後遺症のリスクもあります。リステリア菌が胎児に及ぼす影響を防ぐためにも、妊婦はリステリア菌が含まれる可能性がある食品に細心の注意を払うことが求められます。
胎児の健康を守るためには、リステリア菌感染のリスクがある食品(生ハム、刺身、ナチュラルチーズ、加工肉など)を避けることや、食材の適切な加熱処理が推奨されます。妊娠中の食事管理は、母体と胎児の両方を感染から守るために欠かせないものです。
リステリア菌に感染する確率と発症リスク
リステリア菌に感染する確率は非常に低いとされています。一般的には、年間10万人あたり0.1〜0.3人程度と見積もられており、他の食中毒菌に比べて発症率が低いことが特徴です。しかし、妊婦や高齢者、免疫力が低下している人はリステリア菌に対する感受性が高くなり、感染リスクが増加します。
リステリア菌は冷蔵温度でも生存・繁殖が可能なため、ナチュラルチーズや生ハム、スモークサーモンなど冷蔵保存する食品でも感染の原因になることがあります。一般的に健康な成人がリステリア菌に感染しても軽症で済むことが多いですが、妊婦の場合は胎児に感染が移行する危険があるため、特に注意が求められます。
① リステリア菌に感染する確率:妊婦のリスクは高い?
妊婦がリステリア菌に感染するリスクは、通常の成人に比べて約10倍とされています。これは、妊娠中に免疫機能が変化し、リステリア菌に対する抵抗力が低下するためです。そのため、妊婦は食事に特に注意を払い、リステリア菌に感染する可能性のある食品を避けるよう勧められています。
妊婦がリステリア菌に感染すること自体はまれですが、感染が侵襲型に進行するリスクがあるため、少しでもリスクがある食品には十分に注意することが推奨されます。食品の選び方や調理方法の工夫で、感染リスクを大幅に下げることができます。
② リステリア菌感染が胎児に移行する確率
妊婦がリステリア菌に感染し、侵襲型リステリア症に進行すると、胎児に感染が移行する確率は非常に高く、約50%以上とされています。侵襲型リステリア症では、リステリア菌が血流を通じて全身に拡散しやすく、胎盤を通じて胎児に感染する危険性があるのです。
胎児に感染が移行すると、流産や死産、早産のリスクが高まり、出産後も新生児リステリア症と呼ばれる重篤な合併症を引き起こすことがあります。このため、妊娠中のリステリア菌感染は、母体のみならず胎児にとっても大きなリスクを伴うものと考えられます。
③ リステリア菌が侵襲型に進行する確率
リステリア菌に感染しても、多くの場合は軽症で済む非侵襲型の感染で終わることが一般的です。しかし、妊婦や免疫力が低下している人は感染が侵襲型に進行するリスクが高く、感染者のうち20〜30%が侵襲型リステリア症に進行すると言われています。
侵襲型リステリア症に進行すると、髄膜炎や敗血症など、重篤な症状が現れる可能性があり、妊婦の場合は胎児にまで感染が及ぶリスクが増大します。侵襲型リステリア症は、早期に治療を開始しなければ症状が急速に悪化するため、感染リスクがあると判断された場合は早めの診察が重要です。
侵襲型リステリア症の症状と治療法
侵襲型リステリア症は、リステリア菌感染が全身に拡散し、深刻な症状を引き起こす状態です。通常、リステリア菌感染が侵襲型に進行することはまれですが、妊婦や免疫力が低下している人は進行するリスクが高く、注意が必要です。侵襲型リステリア症は、髄膜炎や敗血症といった重篤な合併症を引き起こし、母体だけでなく胎児にも大きな影響を与える可能性があります。
① 侵襲型リステリア症とは?妊婦と胎児に現れる症状
侵襲型リステリア症では、通常のリステリア菌感染よりも症状が重く、体全体に影響を及ぼすことがあります。母体では以下のような症状が見られることが多く、胎児にも深刻な影響を及ぼすことがあります。
- 高熱と激しい頭痛:通常の風邪やインフルエンザと異なり、体温が高く、頭痛も激しくなることが多いです。
- 筋肉痛や関節痛:全身に倦怠感を感じ、関節や筋肉の痛みが出やすくなります。
- 吐き気や嘔吐:消化器症状も現れることがあり、吐き気や嘔吐が続くことがあります。
- 意識障害やけいれん:重症化すると、神経症状として意識がもうろうとする、けいれんを起こすなどの症状が現れます。特に髄膜炎を併発することが多いため、早期発見と治療が求められます。
妊婦が侵襲型リステリア症にかかると、胎児へも感染が及ぶリスクがあり、流産や死産、早産の原因となることもあるため、妊娠中はこうした症状に敏感になることが大切です。
② 妊婦が感染した場合の治療法:胎児への影響を最小限に
侵襲型リステリア症の治療には、主に抗生物質が使用されます。妊婦が感染した場合、胎児への感染リスクを最小限に抑えるため、早期にアンピシリンやペニシリン系抗生物質が投与されることが一般的です。これらの抗生物質は胎盤を通過するため、胎児に対する感染予防効果も期待できます。
また、場合によっては、アミノグリコシド系抗生物質(例:ジェンタマイシン)を併用することがあり、感染を早期に抑え込むために役立ちます。感染が進行する前に治療を開始することが、母体と胎児の健康を守るために非常に重要です。
妊娠中のリステリア症治療では、胎児への影響を考慮しながら慎重に治療計画が立てられるため、感染リスクのある食品摂取後に異常がある場合は早めに医師に相談することが推奨されます。
③ 新生児がリステリア症を発症した場合の治療法と後遺症リスク
リステリア菌が胎児に感染し、出生後に新生児がリステリア症を発症することがあります。この場合も、抗生物質治療が行われます。新生児に対しては、アンピシリンに加え、必要に応じてジェンタマイシンなどのアミノグリコシド系抗生物質が使用されることが一般的です。
新生児リステリア症は、感染が重篤化しやすいため、早期の対応が重要です。ただし、重症化した場合には後遺症が残るリスクがあり、主に以下のような影響が考えられます。
- 髄膜炎による神経障害:髄膜炎を併発した場合、神経障害が後遺症として残ることがあり、発達の遅れや運動機能障害が生じる可能性があります。
- 視覚・聴覚の障害:髄膜炎の合併症により、視覚や聴覚に影響が出ることもあります。
- 発達遅延:重症例では、言語や学習能力の発達に影響が出る場合もあり、長期的な療育が必要になることがあります。
新生児リステリア症のリスクを防ぐためにも、妊娠中は感染予防に細心の注意を払い、異変があれば早めに医療機関での診察を受けることが大切です。
リステリア菌感染症の潜伏期間と発症までの期間
リステリア菌感染症の潜伏期間は比較的長く、食べ物を介して感染した場合でもすぐに症状が現れるとは限りません。リステリア菌感染症は、最短で3日、最長で70日程度と非常に幅のある潜伏期間を持っており、一般的には1〜2週間で発症するケースが多いです。この潜伏期間の長さが原因で、感染源を特定することが難しい場合もあります。
① リステリア菌感染症の潜伏期間:刺身や生肉を食べた後の発症までの期間
リステリア菌は刺身や生肉など、特に生で摂取される食品に潜むことがあり、妊婦がこうした食品を摂取する際には注意が必要です。食べてから数日以内に症状が現れる場合もあれば、感染後数週間経ってから初めて症状が現れることもあります。
妊婦がリステリア菌に感染した場合、潜伏期間中でも症状が軽度で進行することが多く、最初は風邪や軽い体調不良として見逃されがちです。しかし、発症後は通常の感染症と異なり、症状が徐々に悪化することがあり、発熱や筋肉痛といった風邪に似た症状から始まって次第に倦怠感や頭痛、悪寒などが加わります。さらに侵襲型に進行すると、母体だけでなく胎児への感染リスクが増大するため、体調に異変があれば早期の診察が勧められます。
妊婦が刺身や生肉など、リステリア菌感染リスクのある食品を食べた場合は、潜伏期間中も体調に変化がないかに注意し、早めの検査や診断を受けることが安全です。潜伏期間が長いため、症状が出ないからといって安心せず、予防的な対策を心がけることが大切です。
まとめ
リステリア菌は、妊娠中に特に注意が必要な細菌であり、食べ物を介して感染することが多いです。妊婦が感染した場合、通常の成人よりも侵襲型に進行するリスクが高く、母体だけでなく胎児にまで影響を及ぼす可能性があります。
侵襲型リステリア症では、胎児に感染が移行する確率が約50%以上とされ、流産や早産、死産のリスクが増大します。また、出生後の新生児リステリア症は髄膜炎や敗血症を引き起こし、後遺症の原因となる場合もあります。こうしたリスクを防ぐため、妊娠中はリステリア菌が含まれる可能性があるナチュラルチーズや生ハム、刺身、生肉などを避け、加熱処理が必要です。
さらに、リステリア菌の潜伏期間は数日から数週間、最長で70日と幅広いため、リスクがある食品を摂取した後も体調に変化がないかをしっかり観察することが大切です。感染リスクを未然に防ぐ対策を心がけることで、母体と胎児の健康を守ることができます。
参照:佐野産婦人科
参照:厚生労働省
参照:国立医薬品食品衛生研究所
参照:MSDマニュアル プロフェッショナル版